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認知症、「音」で防げる可能性 塩野義製薬など6社が「ガンマ波サウンド」活用で連携
2023.05.19
(最終更新:2023.05.19)
認知症、「音」で防げる可能性 塩野義製薬など6社が「ガンマ波サウンド」活用で連携
「ガンマ波サウンド」を活用した取り組みでの連携を発表した塩野義製薬など6社の担当者ら=2023年4月18日、東京都中央区
編集部
塩野義製薬(大阪市中央区)とピクシーダストテクノロジーズ(東京都千代田区)は、薬に頼らず認知症の予防や認知機能の改善ができる社会の実現を、異業種連携でめざすと発表した。「ガンマ波サウンド」という音を使うことで、日常生活を送りながら認知機能を改善できる可能性があるという。NTTドコモや三井不動産など4社がパートナーとして参加し、この音を
活用した認知機能ケアにそれぞれ取り組む方針だ。(副編集長・竹山栄太郎)
目次
「40Hzの音」がカギ握る?
塩野義製薬は、新型コロナウイルス感染症の治療薬「ゾコーバ」の開発で知られ、製薬企業からヘルスケアサービスを提供するHaaS(Healthcare as a Service)企業への変革を掲げている。一方、ピクシーダストテクノロジーズはメディアアーティストの落合陽一氏がCEO(最高経営責任者)を務める筑波大発のベンチャーで、音や光、電波などの「波動制御技術」に強
みを持つ。
国内の認知症高齢者は、団塊の世代が75歳以上になる2025年に700万人に達するとも言われる。両社は薬ではなく、五感の刺激を通じて、生活に溶け込んだかたちで認知機能のケアができるサービスの開発に取り組んできた。一般社団法人ウェルネス総合研究所が4月18日に開いたイベントで、共同研究の成果を発表した。
イベントでは両社の発表に先立ち、脳の研究者である杏林大学名誉教授の古賀良彦氏が講演。古賀氏によると、米マサチューセッツ工科大学の研究で、40Hz(ヘルツ)周期の断続音をマウスに聞かせると、認知プロセスで生じる脳波「ガンマ波」が発生し、アルツハイマー型認知症と関連の深い「アミロイドβたんぱく質」が減ったり、空間記憶が改善したりする結果がみ
られたという。
古賀氏はSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」の観点からも高齢者の脳の健康維持が大切だと指摘したうえで、「認知症は人のウェルビーイングにとって最大の問題で、脳を積極的に活性化する一つの大きなカギが40Hzの波だ。取り組みはまだ緒についたばかりだが、安全性や効果を検証すれば認知症予防に有用な手段になるのではないか」と述べた。
杏林大学名誉教授の古賀良彦氏
テレビやラジオの音声を変調
従来の研究で使われた「40Hz周期の断続音」とは、1秒に40回のペースで一定の周波数の音を繰り返した音のことで、「ブー」とブザーのように聞こえる。マウスだけでなく人間の認知機能の改善につながる可能性を示す研究もあるものの、単調なパルス音を毎日長時間聞き続けるのは負担が大きく、日常生活の中に取り込むにはハードルが高いという問題があった。
そこで、塩野義製薬とピクシーダストテクノロジーズは、不快度や不自然さを減らしつつ認知機能ケアの効果を得ることをめざし、日常生活で耳にする音を40Hz周期の音に変調する「ガンマ波変調技術」を開発。共同研究によって、テレビやラジオの音声をリアルタイムに変調した「ガンマ波サウンド」を聞くことで、認知症を防いだり認知機能を改善したりできる可能性
があることがわかったという。
スマホで、高齢者住宅で…社会実装へ業種超え協力
4月18日のイベントには両社に加え、パートナー企業4社の担当者も登壇し、ガンマ波サウンドを使ったサービスの社会実装に向けて連携することを発表した。
塩野義製薬の三春洋介執行役員は、「さまざまな企業と連携することで、生活者に情報やソリューションを届ける機会が増え、認知症克服の一段階を登れるのではないか」。ピクシーダストテクノロジーズの村上泰一郎COO(最高執行責任者)は「音で認知症に挑んでいく。生活に溶け込む形で(認知症予防が)実現できるかもしれないというのは大きな希望だ。各社と一
緒にがんばっていきたい」と述べた。
パートナー企業のNTTドコモは、スマートフォンを通じて脳の健康状態を推定するAI(人工知能)の開発などを手がけており、健康支援アプリ「健康マイレージ」でスマートフォンと音刺激の連携を図るという。出井京子ヘルスケアサービス部次長は「スマートフォンが健康に寄与できれば。一人でも多くの方にサービスをお届けしたい」と話した。
学研グループでグループホームやサービス付き高齢者住宅(サ高住)を運営する学研ココファンは、全国で1万室を展開するサ高住での技術活用を図る。木村祐介取締役は「サ高住には元気な方から介護が必要な方まで幅広く住まわれている。新たな認知症ケアのあり方を追求したい」。
SOMPOひまわり生命保険は、保険(Insurance)と健康応援(Healthcare)を合わせた「インシュアヘルス(Insurhealth)」の取り組みを進めており、認知機能チェックサービスなども提供している。中川ゆう子常務執行役員は「万が一認知症になっても自分らしく生きられる共生社会の実現をともにめざしていきたい」と語った。
三井不動産の健康経営支援サービス「&well(アンドウェル)」を担当する小松原高志グループ長は、「生活に溶け込む認知機能ケアは、三井不動産の持つアセット(資産)やサービスと親和性が高く、今後の不動産業のイノベーションにつながる可能性を感じている」と述べた。
イベントに登壇した各社の担当者ら
竹山栄太郎
(
たけやま
・えいたろう
)
朝日新聞SDGs ACTION!編集長
2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局で勤務後、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年にSDGs ACTION!編集部に加わり、副編集長を経て2024年4月から現職。
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